唱歌や童謡は興味の分野であるのですが、児童を対象とした文化、音楽そのものはもちろんのこといろいろ気づきをあたえてくれ、またさらなる広がりや気になりをもたらしてくれるものですね。

こどものための、でありながら、どの時期のものをみても、時代の流れのようなものや世相、大人の文化を色濃く反映しているのですよね。

昭和初期、戦前である昭和5年から16年ぐらいまでのものだそうですが、童謡ジャズもそんなもののひとつ。
アルバム『オ人形タイナ~戦前童謡・ジャズとタップ~』は、すばらしい世界を紹介してくれている感謝つきぬCDワークであるのです。先日、聴いていた、この中の一曲であるミミー宮島ちゃんの歌う『お祖父さんの時計』から、これからもずっととなりそうな気になりごとがまたひとつ、ふたつ、みっつと…。

(おそらく)日本版として初めてレコーディングされた『Grandfather's Clock』であるという作品。
曲間に入る、ミミーちゃんのタップがとてもすてきですね。

お祖父さんの時計(1940年、昭和15年3月:コロムビア100083)
うた:ミミー宮島
オリジナル作詞・作曲:ヘンリ・クレイ・ワーク(Hnery Clay Work)
日本語詞:門田ゆたか
編曲:仁木他喜雄
演奏:コロムビア・リズム・オーケストラ 



『大きな古時計』として知られる、『Grandfather's Clock』。
1876年にヘンリ・クレイ・ワークによりつくられ、いまなおポピュラーな歌い継がれる名曲。

この曲は、ヘンリ・クレイ・ワークがイギリスを訪問している際に、宿泊先のホテルの主人から聞いたエピソードにヒントを得て歌にしたものなのだそうですが、なんともいえぬあたたかさとせつなさを同時に感じるすてきな曲ですよね。
この曲の誕生についてはこちらのブログが写真も多くくわしいです。
大きな古時計特集 世界の民謡・童謡

わたしが、この歌に親しんだのはNHKの『みんなのうた』を通じて、そして、その後は学校配布の歌集などからでした。
「おおきなのっぽの古時計 おじいさんの時計♪」で、はじまるおなじみの曲。
大きな古時計:歌詞

この『大きな古時計』、日本語詞を保富康午さんが手がけているのですが、このヴァージョンがうまれたのは思っていたより昔のことではないのですね。『みんなのうた』での放送に際しであり、1962年(昭和37年)のこと。近年では、平井堅さんのものもヒットしましたが、当時、番組放送で歌を担当したのは立川清登さん。

さきにあげた、ミミー宮島ちゃんの『お祖父さんの時計』は、歌詞もことなります。

おとぎの国の山よ 河よ こびとたちよ♪
シンデレラのお姫様よ きえて いまは何処
たのしい夜がおとずれたのに
振り子のふごかない
時計 時計 時計
おじいさんの古時計 ♪


シンデレラがモチーフとしてでてきたり、1962年の保富康午版ともオリジナルともまたちがった要素がもりこまれているところがとてもおもしろいなぁと思っています。

この門田ゆたか版日本語詞への興味は
どうして、という理由というより、当時のこどもたちにあたえたかった夢やふれさせてみたかった外国文化などを感じるような。仁木他喜雄さんによるスウィング感たっぷりの編曲アレンジは、とても戦前のジャズの隆盛、愉しきムードを醸しだしていて。

しかし、この後、日米開戦となり、1943年には製造中止(中止となった背景には、敵性語や敵性文化の禁止などもあったのでしょうか…)。中止となるまでに、5173枚を売り上げたのだそうです(枚数情報:Wikipedia:大きな古時計より)。

アレンジは
ジーン・クルーパ楽団の1938年ヴァージョンがアレンジのイメージ参考になっているのだそう。



開国からはじまり明治から戦前までの外国文化の流入、日本独自の応用発展、海外交流などは、ずっと興味をもっていることですが、この曲を聴いて、こども文化に関すること、あらためて、さらにいろいろと調べていきたいなぁと思うようになりました。

この曲にでてくる『シンデレラ』もいつ紹介されて、当時のこどもにどのくらい知られていたのだろう、とか、考えてみたり。翻訳児童文学のいろいろも気になりです。

[翻訳児童文学]
『図説 児童文学翻訳大事典』の概要などにもありますが「翻訳児童文学は日本文学と外国文学の狭間であっただけでなく、美術と文学との狭間でもあった。」のですよね。
でも
「明治・大正・昭和初期において、翻訳は創作に匹敵する量が世に行われてきたが、文学史的記述を見る限り二次的なものとして扱われてきた。児童文学はとりわけその観が強い。研究事典として誉れ高い『日本児童文学大事典』を繙くと、目配りは行き届いているが、創作文学に限られている。手にすれば一目瞭然であるが、『赤い鳥』等の児童雑誌は大半が翻訳もしくは翻案の童話にもかかわらず、それは取り扱われていない。」
であることとか。
『図説 児童文学翻訳大事典』全4巻

また、これは児童文学であったかいなかはさだかではありませんが
国立国会図書館近代デジタルライブラリー資料あれこれによると
ペロー童話集である『西洋仙郷奇談』 井上寛一訳述,矢野竜渓補,明治29年5月では、
「…挿絵は山本昇雲によるもので、「シンデレラ」を訳した 「燻娘」 では、現代のイメージとはかけ離れた和風のシンデレラ像…」があるそうです(リンク先にもその絵あり)。

坪内逍遥版では『おしん物語』という「シンデレラ」の「シン」をとってというものもあったようですよね。

そして、やはり児童文学とともに童謡運動に関連してくる『赤い鳥』も、やはり、あらためてきちんと知りたく、『子ども観の近代―『赤い鳥』と「童心」の理想 (中公新書)』なども読んでみたいです。

渋沢栄一氏の日本国際児童親善会による日本人形とアメリカの人形(青い目の人形)交換や支援していた海外文化のことなども、じぶんの中ではいろいろとむすびついてきたり…。

この曲での関心事はほんとうに多く、いろいろな角度でもほりさげたいところなのですが、まだまだ情報の収集や調査も必要であったり、また、あらためて別に機会をもうけたいぐらい幅広いものもありますので、関連はひきつづきということで。

楽曲にかかわるそれぞれの方にも、リスペクト捧げたいです。
門田ゆたか氏
仁木他喜雄氏
立川清登


(投稿:日本 2012年2月21日、ハワイ 2月20日)

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